ADHDの方が抱えやすい仕事の悩みと対策8選 適職と働き方も紹介

就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジの寺田淳平です。
ADHDの人、または「私はADHDではないか」と感じている人は、仕事で悩むことが多いと言われています。
とくにADHDの特性である「不注意傾向」が強い場合、遅刻やミスが重なり「どう対処したらよいかわからない」とお悩みの人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、ADHDの人によくある仕事の悩みと具体的な対策を徹底解説します。
向いていると言われる職業と働き方についてもご紹介しますので、ADHDに関わる悩みをお持ちの人はぜひ読んでみてください。
目次
ADHDに悩む人が抱えやすい仕事の悩み8選

この章ではADHDの人が抱えやすい仕事の悩みとして、次の8点を紹介していきます。
ただし、これらの悩みがあるかどうかは「ご自身がADHDかどうか」を直接的に判断できるものではありません。
ADHDの特性は人によって個人差があり、その特性による悩みも人それぞれで異なります。
そのため、「まだ検査を受けておらず、自分がADHDであるかどうかを確定させたい人」は、専門医の診察を受けてみてください(後述する支援団体では「検査を受けるべきかどうか」も相談できます)。
悩み①整理整頓がうまくできない

1つ目は「整理整頓がうまくできない」という悩みです。
ADHDの人の中には、書類などをデスクに置いたまま別の仕事に気を取られた結果、机周りが散らかるという人がいます。
ペンやハサミといった道具類も無意識のうちにどこかに置いてきたり、ひとまず引き出しの中に入れておいたりするため、持ち物を整理することが苦手な傾向があります。
そのうちに机周りに物が積み重なり、次第に整理整頓をする気が起きなくなることが少なくありません。
その結果として、仕事で利用する資料や備品を紛失するといったことが悩みだ、という人もいます。
悩み②記入漏れなどのミスや忘れ物が多い
2つ目は「記入漏れなどのミスや忘れ物が多い」です。
これは特に事務処理を中心とする仕事に従事している人からよく聞く悩みです。
ADHDの特性である「不注意性」ゆえに、内容をよく読まないで記載したり、確認作業を飛ばしたりすることでミスが発生しやすくなります。
また、別の業務や新しく湧いてきたアイディアに気を取られて忘れ物をしやすいというのも、ADHDの人の特徴の一つと言われています。
前に述べた「整理整頓がうまくできない」ことから、目当ての物を探すことに時間がかかり、そのうちに人から声を掛けられて忘れてしまうというケースも見られます。
悩み③スケジュールの先延ばしや遅刻をしやすい

「スケジュールの先延ばしや遅刻をしやすい」というのもよくある悩みです。
特に、衝動性の強いADHDの人の中には、そもそも「計画を立てる」「スケジュールを調整する」ということを苦手とする人がいます。
本人の感覚で行動する傾向が強く、遅刻以前に「予定を気にしていない」というケースがあるのです。
もし衝動性が弱かったとしても、不注意性の強い場合はスケジュール確認や準備を怠りやすいので「予定を詰めすぎて遅刻してしまった」という事態に陥る人が多いでしょう。
専門家の中には、こうした時間管理が苦手な傾向を「時間処理の障害(Temporal Processing)」として、大きな特性の一つとして捉えている人もいます。
例えば、臨床心理士の中島美鈴氏は、「ADHDの人は、特性上、時間の経過を把握することが難しい」ということを述べています。
そのため「本人の見積もっている時間」と「実際にかかる所要時間」との間にズレが生じやすく、計画を立てても想定通りに進まずに締め切りを過ぎたり、準備に手間がかかって待ち合わせに遅れたりすることがこうした悩みにつながるそうです。(参考:中島美鈴『もしかして、私、大人のADHD?』)
悩み④タスク管理がうまくいかない
4つ目は「タスク管理がうまくいかない」です。
タスク管理とは、対応すべき業務や課題(タスク)を的確に把握し、進捗管理を行うことを言います。
以下のような作業がタスク管理に該当します。
- 業務遂行までに必要な工程を洗い出す
- 洗い出した工程をもとに計画を立てる
- 作業に優先順位を付け、進捗状況を記録する
しかし、ADHDの人は物だけでなく考えを整理することにも困難を感じやすい人がいるため、必要な工程や作業をうまく切り分けられないと言われています。
また、業務がたまってくるとタスクそのものが頭から脱落したり、新規の案件に気を取られて優先順位を見失ったりします。
こうしたタスク管理は仕事の組み立ての基本になるため悩みとして挙げる人は多いです。
悩み⑤気が散りやすくて集中できない

5つ目は「気が散りやすくて集中できない」です。
仕事をする上では、ある程度集中的に業務を片付けなくてはならない場面があります。
とくに、締め切りに追われているときや繁忙期などは、短時間で多くの仕事を処理する必要があるでしょう。
しかし、ADHDの特性上、人から話しかけられたり仕事以外に気にかかることがあったりすると、そちらに気を取られて集中できないという人が少なくありません。
結果として、パフォーマンスが上がらないことが悩みになるようです。
悩み⑥興味のあることしかする気になれない
ADHDの人は「興味のあることしかする気になれない」とよく言います。
実際、ADHDの特性の中には「特定の分野や興味のあることに異様な集中力を発揮できる」というものがありますが、この特性が裏目に出ると悩みに変わります。
特に仕事では興味の有無に関わらず対応しなくてはならない場面が多々あります。
ADHDの人に限った話ではありませんが「やる気が起こらないままイヤイヤ作業を続けることが苦痛だ」という悩みを持つ人は一定数います。
悩み⑦自分に合う働き方や向いている職業がわからない

7つ目は「自分に合う働き方や向いている職業がわからない」です。
先に述べた「タスク管理が苦手」のように、ADHDの特性の中には仕事の土台を崩しかねない特徴があることは確かです。
「ミスや遅刻が多い」というのもその一つでしょう。
そのため、自分に合う働き方や適職がわからず職場を渡り歩く人もいます。
とはいえ、あなたのADHDの特性を理解すれば、あなたに合った職場や職業は見えきやすくなるため、あまり悩みすぎないことが大切です。
ADHDの人に向いている具体的な働き方や職業は4章で解説します。
悩み⑧誰に(どこに)相談すればよいかわからない
最後は「誰に(どこに)相談すればよいかわからない」という悩みです。
特に、ADHDの特性が見られるものの「まだ疑っている」段階の人は、こうした悩みを持つことが多いでしょう。
「いきなり病院に行くのは気が引ける」という声も多く聞きます。
また、グレーゾーンの場合は検査を受けたのに確定診断が下りないことで、適切な支援が受けられず、職場での理解も得づらいことで悩む人が多いと言われています。
仕事に悩むADHDの人が実践したい8つの対策

それでは、仕事に悩むADHDの人はどのような対策を講じるとよいのでしょうか?
前提として、悩みを一人で抱え込まずに、周りに助けを求めることが大切です。
ADHDに限らず、発達障害に伴う悩みや問題を抱え込むと、うつ病のような「二次障害」につながる場合があります。
そうならないためにも、できるだけ周囲の同僚やご家族と悩みを共有して、必要に応じた支援を受けることが重要になるのです。
この点を念頭に置きながら、以下の対策を実践してみてください。
(参考:司馬理英子『大人の発達障害 アスペルガー症候群・ADHD シーン別解決ブック』、對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の方が上手に働くための本』)
対策①医師や支援機関に相談する

ADHDに伴う悩みをお持ちの人は、まずは「医師や支援機関に相談」しましょう。
かかりつけ医はあなたがADHDの特性とうまく付き合っていく上で、大切なパートナーです。
定期的に通院して悩みを共有すれば、あなたに合ったアドバイスを得られるでしょう。
特に、前に述べた「二次障害」のある人は、まずは医師に相談して治療を進めるようにしてください。
また、公・民を問わず発達障害を含む障害のある人をサポートしている機関は複数あります。
具体的には、以下の支援機関が挙げられます。
次項の「就労移行支援事業所」のように仕事の悩みにしっかり寄り添って解決策を提示してくれる機関もあります。
もし、どの支援機関が適切かわからないという場合は、お住いの自治体の障害福祉課が窓口になります。
お悩みの人は一度問い合わせてみてください。
対策②就労移行支援事業所に通所する
2つ目は「就労移行支援事業所に通所する」です。
就労移行支援事業所では、病気や障害のある人を対象に障害者総合支援法に基づいて行われる障害福祉サービスを提供しています。
利用にあたって職歴の有無は問われません。
また、障害者手帳は必須ではなく、専門医による診断書があれば支援を受けることができます。
支援の詳細は事業所ごとに異なりますが、あなたの特性に合わせた「個別支援計画」に基づき、仕事の相談からメンタル面の相談、コミュニケーションの訓練、専門スキルの習得、就職先の紹介までと幅広いサポートを行っています。
また、就職・転職された人の「職場定着支援」をあわせて行っている事業所もあります。
就労定着支援では、一般的な定期面談の他に、就職先での業務内容や業務量の調整といった「職場で長く働き続けるためのサポート」が受けられますので、仕事が続かないことでお悩みの人には特にオススメです。
実際、障害者職業総合支援センターの統計によると、職場定着支援を受けた人とそうでない人で1年後の職場定着率に「20%」近い差が出ています。
(参考:障害者職業総合支援センター『障害者の就業状況等に関する調査研究』)
相談・見学は無料ですので、支援内容に興味を抱いた事業所に一度、詳細を問い合わせてみてください。(私たちキズキビジネスカレッジも、就労移行支援事業所の一つです)
就労移行支援事業所のさらなる詳細は、コラム「就労移行支援とは?サービス内容から就労継続支援との違いまで解説」で紹介していますので、ご覧ください。
対策③整理整頓だけする時間を設定する

3つ目は「整理整頓だけする時間を設定する」という対策です。
一日のうちに「整理整頓しかしない時間」を設けると、自分の行動やタスクを一度落ちついて確認できる機会ができます。
まずは、時間の枠を設定することが大切です。
その時間にメモを一つの手帳・ノートにまとめたり、いま取りかかっている業務に直接関係のない書類を決まったところに片付けたりすれば仕事の見通しがよくなるでしょう。
対策④徹底的にリスト化する
「徹底的にリスト化する」というのも有効です。
特に、タスクの見落としや忘れ物が多いというADHDの人にオススメの対策です。
リスト化のコツは「1つの媒体にまとめる」ことです。
ノートやメモなど決まった媒体に仕事や持ち物を書きだし、完了したら線を引いて消す習慣をつけましょう。
マーカーの色にルールを設けて優先順位をコントロールするなど工夫したリスト作成ができれば、さらに仕事が楽になるかもしれません。
対策⑤持ち物などは前日に準備する

5つ目は「持ち物などを前日に準備する」です。
これは当日の支度に時間がかかることで遅刻しやすい人、忘れものをして取りに戻ることが多い人にオススメな対策です。
さらに、持ち物を「できるだけ一つのバッグにまとめる」習慣をつけるとより効果が上がります。
前日に準備しても、バッグが複数あるとバッグごと忘れる可能性が生じますので、普段から持ち歩くバッグを一つに決めておくのがよいでしょう。
対策⑥ゲーム要素を取り入れる
「ゲーム要素を取り入れる」という方法もあります。
これは特に「興味のあること以外はやる気になれない」という人に有効です。
医学博士である星野仁彦先生は、ADHDの人はゲームやネットなどにはまりやすく、寝食も忘れてのめり込む傾向が顕著だと指摘しています。
(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』)
見方を変えれば、ゲームやネットにはまりやすい傾向を利用することで、仕事に対しても集中力を切らさずに取り組める可能性があるのです。
ここで言う「ゲーム要素」とは、「競争心を刺激されるようなことや勝負事のこと」というニュアンスでとらえてください。
具体的には、タイムアタック形式のようにどれだけ早く作業を終えられるかを計測してみたり、一緒に仕事をしている同僚とどちらが多く契約を取れるかを競ってみたりするといった方法が挙げられます。
仕事に楽しみを見出すためにもゲームや勝負事を取り込んでみてはいかがでしょうか?
対策⑦アプリやツールを利用する

7つ目は「アプリやツールを利用する」です。
スマートフォンの内蔵アプリや、Googleの提供しているカレンダーアプリのように設定した時刻になるとプッシュ通知をしてくれる無料のアプリは数多くあります。
こうしたアプリの「リマインダー機能」を活用すれば、タスクや予定を忘れずに済むでしょう。
また、「Time Tree」のような予定共有アプリを使って家族や同僚とスケジュールを共有し、予定を忘れかけているときは声を掛けてもらうなど、アプリを足掛かりとして支援を求めるのも有効です。
最近では、ADHDの人の支援目的で開発された「タスク管理ツール」なども注目を集めています。
具体的には以下のようなものです。
いずれも当事者や医療関係者が共同開発していますので、あなたの困り感にあったサポートが期待できると思います。
仕事の悩みをお持ちの人はこのようなアプリやツールを利用するのもよいでしょう。
対策⑧雇用枠を見直す
最後は「雇用枠を見直す」です。
ADHDの人の中には、障害者向けに設けられた「障害者雇用枠」ではなく、通常の「一般枠」で就労されている人がいると思います。
その場合、障害者雇用枠に再就職することで仕事の運びが楽になる可能性があります。
障害者雇用枠では障害特性に合わせて仕事内容や業務量を調整できるなど、特別な配慮を受けることができます。
ただし、一般枠と比較すると給与・キャリア・待遇の面で差が生じるかもしれないというデメリットもあります。
障害者雇用枠での就労には、一般的に「障害者手帳の取得」が必要です。
「どちらの雇用枠が向いているか」「障害者手帳をどう取ればよいか」など判断に迷う人は、前に述べた就労移行支援事業所などの支援機関で相談が可能ですので、興味のある人は問い合わせてみましょう。
ADHDに悩む人に向いていると言われる職業と働き方

最後に、この章ではADHDに悩む人に向いていると言われる職業と働き方を特性と関心などの観点から、次のように紹介します。
ただし、向いている・向いていないは(ADHDの傾向を含む)その人の特性によっても異なります。
それゆえ、これから紹介する職業や働き方が必ずしもあなたに向いているとは限りません。
あくまでも参考程度に留めて、実際のお仕事探しの際にはあなたの特性に詳しい医師や支援者の助言を得ながら就職活動をすることをオススメします。
①不注意性の強い人に向いている職業

ADHDの人は不注意によるミスや抜け落ちが多い傾向にありますが、これは「アイディアが次々に思い浮かぶ」ことに一因があると言われています。
こうした不注意性にも関係している「発想力と独創性に富んでいる」という特性がある人の場合、持ち味である発想力・独創性を活かしやすい以下のような職業が向いていると言われています。
- デザイナー
- アニメーター
- イラストレーター
②多動・衝動性が強い人に向いている職業
一方、多動・衝動性が強い人は特定の場所に留まって作業をするよりも、行動力や好奇心を活かせる職業が向いていると言われています。
具体的には比較的、行動力を活かして仕事に取り組める以下の職業が該当するでしょう。
- 営業職
- ジャーナリスト
- カメラマン
- 起業家
ただし、営業職であっても事務仕事が付随するなど、ADHDの人が必ずしも得意でない業務が発生することはありますので、これまでに解説してきた対策と組み合わせることが大切です。
③特定分野への関心が強い人に向いている職業

関心分野と職種の専門性がマッチしたときには、素晴らしい成果を発揮できる可能性があります。
特定分野への関心が強い人には、専門性の高い、以下のような職業が向いていると言われています。
- プログラマー
- エンジニア
- 研究者
発達障害に関する著書を多く残している福島学院大学大学院教授の星野仁彦先生は、専門的な資格を取ることでなれる専門的技術職こそがADHDの人の一番の適職だと明言しています。
(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち〈職場編〉』)
とはいえ、興味が持てる分野は人によって異なりますので上記の3つの職業が必ずしも適職であるとは限りません。
関心分野への専門知識や技能を活かして、作曲家や音楽家などの芸術方面へ進むという人も少なからずいます。
④ADHDの人に向きづらい職業
反対に、ADHDの人が向きづらい職業として以下が挙げられます。
- 秘書
- 経理職
- 事務職
秘書のように「シビアなスケジュール調整が求められる仕事」や、経理・事務職のように「細やかで正確な処理が求められる仕事」はADHDの不注意特性と相性がよくないと考えられます。
また、いずれも内勤が基本となるという点でも行動力を活かしづらいでしょう。
とはいえ、具体的な業務内容・担当によってはADHDの特性を活かせる場合もありますので、対策がマッチすれば仕事を上手に進められる場合もあります。
それゆえ、上記の向いている職業・向きづらい職業は、あくまでも一例としてとらえてください。
⑤ADHDの人に合った働き方

一般的にADHDの人には「自由度の高い」働き方が合っているとされています。
以下の3つの就労形態が具体例として挙げられます。
- 裁量労働制
- フレックス制
- フリーランス
裁量労働制とは、実労働時間ではなく「残業時間・残業代も含めてあらかじめ定められた労働時間分の給料が発生するみなし残業制」の一種です。
働き手の裁量で残業や業務の進め方を決められるため自由度は高いでしょう。
フレックス制とは、始業と終業の時間を固定せずに就業時間の設定を働き手にゆだねる就労形態のことです。
一定期間における総労働時間を定めることで、その範囲内であれば1日単位での始業と終業の時間は働き手の方で決めることができます(ただし、「コアタイム」と呼ばれる必ず就業していなくてはならない時間が規定されている場合が多いです)。
具体的には、「今日は朝8時から夕方5時まで働く」、「明日は昼12時から夜9時まで働く」、といった働き方が可能になります。
フリーランスは、「組織に属さずに個人で業務を請け負う自由業」を意味します。
近年では、クラウドサービスの進歩や新型コロナ禍により、時間や場所にとらわれない働き方が浸透しつつあり、珍しいものではなくなってきています。
上述のような自由度の高い働き方であれば、ADHDの人の独創性や行動力を発揮しやすいのではないでしょうか。
改めて、ADHDとは?

改めて、ADHDの概要を紹介します。既にご存知かもしれませんし、これまでに紹介した内容と重複する部分もありますが、全体的な理解が深まると思いますので、よければご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、田中康雄『大人のAD/HD』、岩波明『大人のADHD:もっとも身近な発達障害』)
①ADHDの概要
ADHDとは、「注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)」を意味する発達障害の一種です。
ADHDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。
- 不注意…忘れ物やケアレスミスが多く、確認作業を苦手とする
- 多動・衝動性…気が散りやすく、貧乏ゆすりなど常に身体を動かしていないと落ちつかない
その他にもよく挙がる特性の現れ方として、「マルチタスクやスケジュール管理が苦手」といったものがあります。
②ADHDの診断は医師だけが可能

「自分が(ある人が)発達障害(ADHD)かどうか」の診断は医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。
逆に言うと、医師以外には「発達障害かどうか」の診断・判断はできません。
あなたが(ある人が)「発達障害かどうか」をハッキリさせたいのであれば、病院を受診してみることをオススメします。
「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットやデメリット」などを相談することができます。
③ADHDの医学的な診断基準
下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』に挙げられているADHDの診断基準です。
次のような診断基準に当てはまればADHDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がADHDかどうか」は、医師だけが判断できます)。
- (a)学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)
- (b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)
- (c)直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)
- (d)しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)
- (e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)
- (f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う
- (g)課題や活動に使うようなもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう
- (h)しばしば外的な刺激(成年後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう
- (i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい
上記の項目のうち、6つ以上の項目が少なくとも6か月以上続いている
症状のいくつかが2つ以上の環境(職場・家庭・学校など)で見られる
12歳以前から複数の症状が見られる
- (a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする、またはいすの上でもじもじする
- (b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)
- (c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)
- (d)静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない
- (e)しばしば”じっとしていない”、またはまるで”エンジンで動かされているように”行動する (例:レストランや会議に長時間留まることができないかまたは不快に感じる;他の人には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)
- (f)しばしばしゃべりすぎる
- (g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことが困難である)
- (h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)
- (i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)
上記の項目のうち、6つ以上の項目が少なくとも6か月以上続いている
症状のいくつかが2つ以上の環境(職場・家庭・学校など)で見られる
12歳以前から複数の症状が見られる
④ADHDの「治療」について
ADHDの特性に働きかける「治療」・薬・対応などは確立されてきています。
その例はコラム「大人のADHDとは?その特徴・特性/診断/対応法/サポート団体などを紹介」の「ADHDの特性への4つの対応方法」の章をご覧ください。
⑤ADHDは、生まれつきのもの

ADHD(発達障害)は、生まれつきのものです。ADHDの特徴は幼少期から見られます。
そのため「成長してからADHDになる(成長につれてADHDになる)」ということはありません。
また、以前は「ADHDは子ども特有のもの」と考えられていましたが、現在の医学では「ADHDの症状は、大人になっても継続するもの」であるとされています。(ただし、多動・衝動性の特性は、一般的に成長するうちに薄れることも多く見られます)
このコラムでもご紹介してきたとおり、対策、相談先、特性を緩和する薬などもたくさんあります。苦労や困難が生じることもあるとは思いますが、必要以上に不安に感じる必要はありません。
⑥いわゆる「大人のADHD」とは
近年、「大人のADHD」という言葉が使われるようになってきました。
- 幼少期からADHDの特性は持っていたものの、「大人になってからADHDだと気づいた状態」を指す俗語のことです。
決して「大人になってからADHDになった」わけではありません。
就職後に正確な処理・確認作業・管理業務を求められるようになったことで、困難に直面しADHDの特性があることに気付いたという人は少なくありません。
「大人のADHD」について詳しく知りたい人は、コラム「大人のADHDとは?その特徴・特性/診断/対応法/サポート団体などを紹介」をご覧ください。
⑦いわゆる「グレーゾーン」とは

ADHDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ADHDの)グレーゾーン」と言います。
グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります。
(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)
ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。
確定診断があってもなくても、またADHDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。
⑧ADHD以外の発達障害
発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。
ADHD以外の主な発達障害には、ASD(自閉症スペクトラム障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。
ADHD・ASD・SLDの複数が併存する人もいます。
気になる人はコラム「【大人の発達障害】発達障害の3つの分類とそのタイプ、対処法、相談先などについてお話します」をご覧ください。
まとめ「ADHDの仕事の悩みは対策次第で解決できます」

ADHDの人が抱えやすい悩みから、実践的な対策、向いていると言われている職業・働き方を紹介してきました。
あなたの仕事に取り入れられそうなものは見つかりましたか?
繰り返しにはなりますが、大切なのは周囲の人や専門家に協力を求めることです。
特に、かかりつけ医の先生への相談は、欠かさないようにしましょう。
その上で、状況に応じて専門の支援機関を頼りながら、対策を実践していくのがオススメです。
ぜひ、一人で抱え込まずに、支援先に相談・問い合わせをしてみてください。
このコラムが、ADHDの特性に悩む人の助けになれば幸いです。
監修志村哲祥

しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。
臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。
【著書など(一部)】
『子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数
日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
監修角南百合子
すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい。
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→
ADHDで仕事ができないと悩む自分が実践できる対策はありますか?
一般論として、次の8点が考えられます。(1)医師や支援機関に相談する、(2)就労移行支援事業所に通所する、(3)整理整頓だけする時間を設定する、(4)徹底的にリスト化する、(5)持ち物などは前日に準備する、(6)ゲーム要素を取り入れる、(7)アプリやツールを利用する、(8)雇用枠を見直す。詳細はこちらをご覧ください
ADHDの特性に向いている仕事/職業や働き方はありますか?
実際の個人や職場によって異なりますが、例えば、「多動・衝動性が強い方」には「営業職」「ジャーナリスト」「カメラマン」「起業家」が向いている可能性があります。「向いている職業や働き方はある」と安心した上で、就職・転職活動に臨みましょう。詳細はこちらをご覧ください。