自閉症スペクトラム障害(ASD)の方が就職を成功させるための7つのコツ

こんにちは、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジの寺田淳平です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)のあるあなたは、なかなか就職や転職が決まらずに、悩んではいませんか?
自閉症スペクトラムの人は、その特性ために就職活動で苦労するケースが少なくありません。
しかし、さまざまな支援も受けながら自分の特性を理解した上で就職活動を進めれば、あなたに合ったお勤め先を見つけられる可能性が高まります。
この記事では、自閉症スペクトラムの人が、就職を成功させるためのコツを紹介します。
「就職活動の場面で抱えやすい悩み」、「アピールしやすい強み」、「支援機関」、「自閉症スペクトラムの人に向いていると考えられる仕事」などもあわせて解説しますので、ぜひご一読ください。
【本文に入る前に…】
就労移行支援
という仕組みを知っていますか?
「就労移行支援」とは、「病気や障害のある人の一般企業での就職や仕事での独立と、その後の定着」をサポートする仕組みのことです。キズキビジネスカレッジは、就労移行支援の中でも、「これまでの職歴とは異なる、新たな業界・分野への就職」と「これまでの職歴を活かした就職」の両方に強いのが特色です。就労移行支援は公的な認可に基づいて行われており、病気や障害があることが診断書から明らかな場合などは、国の補償で最低0円から就労支援を受けられることもあります。
を利用した方は…
- 初任給
- うつや発達障害があっても、
KBCでは平均21万円
- 就職までの期間
- 通常約1年半かかるところ、
KBCでは平均4か月
- 就職率
- 通常52%のところ、
KBCでは82%
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2022年7月現在9校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→
目次
自閉症スペクトラムの人が就職活動で抱えやすい4つの悩み
自閉症スペクトラムの人が就職活動で抱えやすい悩みには、どのようなものがあるのでしょうか?
この章では、よく聞かれる悩みを4つ紹介します。
(参考:梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』)
悩み①履歴書でアピールできる強みを書けない

就職活動の際には、エントリーシートや履歴書の中でアピールポイントを書くよう求められることがあります。
こうした要求には、言外に「就職先の企業で活かせそうな点をアピールするように」という意味が込められています。
しかし、自閉症スペクトラムの人は、そうした「言外の意味や要求の真意を読み取り、適切に答える」ということが苦手です。
そのため、「履歴書の中でアピールできる強みを書けない」という悩みをお持ちの方は多いみたいです。
こうした悩みの対策としては、自分の強みを書きだしたものを人に確認してもらい、あらかじめ決まったな問答集を作成するという工夫が効果的です。
悩み②面接でコミュニケーションがうまく取れない
2つ目は「面接でコミュニケーションがうまく取れない」という悩みです。
これは、自閉症スペクトラムの「コミュニケーションにおける困難」から生じる就職活動中の悩みになります。
よくある例に、面接の最初に「会場までどうやって来ましたか」という質問を受けたとき、どこから話はじめていいかがわからなくなるというケースがあります。
面接官がこのような質問をする狙いとして、簡単な質問からはじめて緊張を解きほぐす「アイスブレイク」の意味合いが強く、詳細な回答を求めていない場合が多いものです。
回答例としては、「JR○○■■線で参りました」というような、簡単な答えで大丈夫です。
しかし、自閉症スペクトラムの人は、「朝の何時に起きて支度をして、○時に家を出て、徒歩○分のバス停に行き、○番のバスに乗って…」ということを延々と話してしまいがちです。
このような悩みの対策には、「質問には3文以内で答える」などのルールや条件を決めておくという方法があります。
悩み③自分に合いそうな職業が見つからない

就職活動中に「自分に合いそうな職業が見つからない」という自閉症スペクトラムの人も多いです。
仕事をする上では、職場での人間関係を良好に保つためにも、ある程度のコミュニケーション能力が求められます。
そうした対人スキルが必要とされない職業も存在しますが、種類が限られるため、求人数も少なくなりがちです。
コミュニケーションに困難を抱える自閉症スペクトラムの人は、就職活動中に「自分に合いそうな職業が見つからない」「そもそも向いている職業なんて無いのではないか」という悩みを抱えやすいのです。
※自閉症スペクトラムの人に向いている可能性のある職業については、後の章「自閉症スペクトラムの人に向いていると考えられる仕事」で解説します。
悩み④どこに相談をしていいかわからない
最後は「どこに相談していいかわからない」という悩みです。
自閉症スペクトラムの人の中には、定期的に病院やクリニックに通院している方もいるでしょう。
しかし、特性に伴う悩みならともかく「就職活動の悩みは医師に話すことではない」と考えている人も少なくありません。
コミュニケーションが苦手なので、悩みを抱えていても、「どこにどう相談していいかわからない」と、単独で就職活動に取り組むことに固執するケースもあります。
このような人は、後述するように、まずは自閉症スペクトラムに理解のある専門機関を訪ねるのがよいでしょう。
自閉症スペクトラムの人が就職活動でアピールしやすい強み
この章では、就職活動時の参考になるように、自閉症スペクトラムの人がアピールしやすい「強み」を紹介します。
ただし、ここで挙げる強みは一般論であり、自閉症スペクトラムを抱える人全てに当てはまるとは限りません。特性や性格によって多少の個人差はあります。
お伝えする内容は「自閉症スペクトラムでも強みはある・強みを述べることはできる」という安心材料にしていただいた上で、実際の「あなた」の具体的な強みについては、後述する支援機関などにきくことをオススメします。
(参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』、本田秀夫『自閉症スペクトラム』、厚生労働省「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」)
①自閉症スペクトラムの人の5つの強み

自閉症スペクトラムの人が就職時に強みにできることとして、以下の5つが考えられます。
- 文字情報の処理に優れる
- 特定領域の記憶力に長けている
- 関心分野に高い集中力を発揮できる
- 規則に従順で規範意識が強い
- 論理的な思考が得意
実際に「①文字情報の処理能力」を活かして、原稿の中の間違いを探す「校閲」の職業に従事している人もいます。
②や③の「記憶力や集中力の高さ」については、その人の関心のある分野によって変わるため、どの分野に興味を持っているのかを見極めることが大切です。
④の規範意識の強さは、「ルールへのこだわり」のことです。
法人業務など、「規定や法令の順守」が大切になってくる仕事で強みになります。
経理業務で特性を活かしている人もいます。
⑤の論理的思考が得意という強みは、どんな仕事にも応用が利く特性です。
しかし、あまり突きつめすぎると、会話中に相手を追いつめてしまうこともあるので、注意が必要です。
②自閉症スペクトラムの人が強みを活かせる例
自閉症スペクトラムの強みが出るのは、自分の関心分野への「こだわり」が役立つときだと言われています。
例えば、公的なルールに強い「こだわり」を持つ人が法務部門に就職すると、他人の意見に惑わされず、堅実に職務を全うできる可能性があります。
また、言葉や文字への「こだわり」と視覚情報を得意とする特徴があわさった自閉症スペクトラムの人が出版社に就職して、校閲に従事したところ、指摘が正確で重宝されたという例もあります。
「こだわり」の強さをポジティブに捉えることが、就職活動でのアピールや、就職後の活躍に繋がる可能性があります。
自閉症スペクトラムの人が就職を成功させるための7つのコツ
ここからは、自閉症スペクトラムの人が就職を成功させるためのコツを具体的に紹介します。
前提として大切なのは、就職活動中に生じる悩みをひとりで抱え込まないことです。
第三者や支援者に相談することで、あなたの特性や現状に適したアドバイスが得られます。
専門家の意見を取り入れることで視野が広がり、就職活動を効果的に進めることができるはずです。
ぜひ、周囲の人にアドバイスを求めながら、以下のコツを実践していってください。
(参考:對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』)
コツ①(二次障害がある場合)治療を進める

自閉症スペクトラムに関連した「二次障害」がある場合は、まず「治療を進める」ことに専念しましょう。
「二次障害」とは、発達障害に伴って起こる精神疾患などの病気などのことをいいます。
発達障害の人は社会性・コミュニケーションに困難があるため、学校へ通う思春期前後に集団生活になじむことができず、いじめを受けやすいです。
その結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病を患ってしまい、それが就職活動にまで影響していることが多いいと言われています。
「二次障害」には主に以下のようなものがあります。
- 適応障害:明らかなストレス要因を機に情緒不安定や抑うつ、身体症状が続く
- 不安:漠然とした不安が続く全般性不安障害、対人場面で緊張が出る社交不安障害
- 強迫性障害:不快感を伴う考えや行動をやめられない強迫観念や強迫行為が続く
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD):ショックな出来事の後で恐怖や無力感が持続し、体験の想起や記憶がとつぜん思いだされる「フラッシュバック」が起こる
就職活動をはじめるときには、専門医の診断を受けて、まずは「二次障害」がないかを確認し、必要に応じて治療をするようにしましょう。
コツ②専門の支援機関を頼る
民間公民を問わず、自閉症スペクトラムの人の就職支援を行っている機関はたくさんあります。
具体的には、以下のような支援機関が挙げられます。
「発達障害者支援センター」は、発達障害のある人が安定した生活ができるように総合的な支援を目的として設置されている支援センターです。
就職だけでなく、生活面や教育など、発達障害に関わる相談を受け付けているのが特徴です。
「就労移行支援事業所」では、病気・障害のある人に対して、就労支援を行っています。
とりわけ就職を考えている人には、全体的な支援を実施しています。
就労移行支援については、次の項目で詳しく解説します。
「障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」では、発達障害を含む障害のある人に職業サポートを行っています。
上記の支援機関は、障害者手帳を取得していない方でも、通常は無料で利用可能です。
基本的にはお住いの市区町村役場が窓口になっておりますので、どの支援機関が適切かわからないと言う場合は、役場の総合窓口に相談してみてください。
(参考: 国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害者支援センター・一覧|相談窓口の情報」、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「地域障害者職業センター」、厚生労働省 ※PDF「障害者就業・生活支援センター」)
コツ③就労移行支援事業所に通う

就職をお考えの自閉症スペクトラムの人にオススメしたいのが、「就労移行支援事業所」です。(私たちキズキビジネスカレッジもその一つです)
就労移行支援事業所では、一般企業への就職を目指す、発達障害や疾患のある人に向けて、就労支援を行っています。
主な支援内容は以下の5つです。自閉症スペクトラムの特性と利用者個人の特性に合わせて、就職に関する全般的なサポートを受けることができます。
- 生活習慣改善のサポート
- メンタル面のケア
- 就職に関連するスキルの講習
- 実際の就職活動の支援
- 職場定着支援(事業所による)
①の生活習慣改善、②のメンタル面のケアは、各事業所が行う「改善プログラム」や日常的な相談を通じて行われます。
③の就職に関連するスキルの講習は、事業所によってさまざまです。
基礎的なスキル(ワード・エクセル・軽作業など)を重視しているところ、より高度なスキル(会計・ビジネス英語・ウェブマーケティングなど)を重視しているところなど、内容や方向性が様々に異なります。
④の実際の就職活動の支援には、「あなたに向いた仕事・働き方・就職先探し」、「模擬面接」、「雇用枠の検討」、「インターン先探し」などがあります。
⑤の職場定着支援は、就職後のサポートです。(行っていない事業所もあります)
就労定着支援では、一般的な面談の他に、必要に応じて就職先も交えて、業務内容や業務量の調整といった、職場で長く働き続けるためのサポートが受けられます。
これまで仕事が続かないことに悩んできた方には、特にオススメです。
2017年に行われた障害者職業総合センターの調査によると、定着支援を受けた発達障害者の1年後の職場定着率が80.0%に対し、受けなかった人たちの職場定着率は61.6%と、20%近い差が出ています。
(出典元: 障害者職業総合支援センター ※PDF「障害者の就業状況等に関する調査研究」)
相談・見学は無料ですので、興味のある事業所があれば、問い合わせや見学を行うことをオススメします。
コツ④自分の特性を理解する
自閉症スペクトラムに限らず、発達障害の人は、特性による向き・不向きや、得意・不得意が顕著に現れる傾向にあります。
中でも、「できないこと」については、そもそも発達障害が脳の機能の偏りから生じていることもあり、カバーできる部分もしきれない面もあります。(カバーできる部分については後述します)
そのため、まずはあなた自身が、特性に対する自己理解を深めることが大切です。
自己理解が深まれば、面接の場などで、あなたの特性を知ってもらうための説明ができます。
また、「何ができて・何ができないか」という特性理解は、実際に就職して働くときに、業務内容や業務量について職場の人と相談したり、自分を理解してもらったりする際に役立ちます。
そのため、まずは自分の特性を理解しましょう。もう一歩先に進みたいという方は、それをうまく説明できるようにしておくとよいでしょう。
具体的には、以下のような方法が有効です。
- 「紙に書きだしてリスト化して記憶する」
- 「専門機関の支援員などに文章を見てもらいながら修正を重ねて、テンプレート化する」
自分の特性を考えるときには、あなたが普段感じていることの他に、「周囲の人から言われたこと」もヒントになります。
また、「専門家」の観点も参考になります。
ご家族やご友人、先に挙げた「専門の支援機関」などを積極的に頼るようにしましょう。
コツ⑤雇用枠をじっくり検討する

5つ目のコツは「雇用枠をじっくり検討する」です。
求人・雇用の中には、「障害者枠」というものがあります。
障害者枠とは、文字どおり、「障害者を対象とする求人・雇用枠」のことです。
障害者枠ではない求人・雇用のことは「一般枠」と言います。
「障害者枠」では、発達障害の特性や程度に応じて、業務内容や業務量への配慮を受けながら働くことができます。(ただし、通常は障害者手帳の取得が必須です)
一方で、「障害者枠」は、「一般枠」に比べると、給与水準や昇進などのキャリア面において満足のいく待遇を得られない可能性があります。
自分の特性や程度、経済状況、生活と仕事の優先順位などを総合的に考えて判断することが大切です。
特性理解と同様に、雇用枠についても、専門家と一緒にじっくり考えるようにしましょう。
コツ⑥特性をカバーする習慣を身につける
「特性をカバーする習慣を身につける」というのも就職を成功させるコツです。
例えば、仕事で曖昧な指示を受けて混乱することがないように、日ごろから「具体的な指示を得るために質問をする習慣」を身につけるとよいでしょう。
また、自閉症スペクトラムの人は、自分の関心分野などには高い集中力を発揮できる分、何時間もぶっ続けで作業をする「過集中」という状態に陥りがちと言われています。
こうした特性と「自分の体調や疲労に気づきにくい」という傾向が相まって、倒れるほど作業に没頭することも少なくありません。
そのため「アラームで時間管理をして休憩時間をつくる」という習慣も、自閉症スペクトラムの人には効果的です。
上記のような習慣を身につけることは、実際の仕事で役立つだけでなく、就職活動中にも「特性を補うために努力をしている」というアピールポイントにもできますのでオススメです。
コツ⑦アルバイトから始めてみる

正規雇用を考えているけれど、就職先がなかなか決まらない…という方は、「アルバイトなどの非正規雇用から始めてみる」のも一つの手段です。
「絶対に、すぐに正規雇用で働く」と思わずに、まずはアルバイトからスタートすることで働くこと自体に少しずつ慣れていくことができます。
また、アルバイトで興味のある業界・職種・働き方を試すうちに、あなたの向き・不向きもわかっていきます。
あなたに合った業種・働き方がわかれば、その分野での正規雇用を求めて、ステップアップすることもできます。
お勤め先によっては、長く働くうちに、正規雇用への打診があるかもしれません。
また、アルバイトであれば、失敗しても、「不向きがわかった」とポジティブに捉えやすいかと思いますので、就職先が見つからないという自閉症スペクトラムの人は、ぜひ検討してみてください。
そして、アルバイトと並行して支援者に相談することで、あなたに向いた「就職先」はより見つかりやすくなります。
自閉症スペクトラムの人に向いていると考えられる仕事

自閉症スペクトラムの人に向いている仕事を考える上で大切なのは、以下の2点に着目することです。
- 静かな環境で、ひとりで仕事ができるか
- 規則やマニュアルに沿って進められるか
上記の観点から、「自閉症スペクトラムの人に向いているかもしれない職業」には、以下のものがあります。
- プログラミングなどのIT系
- 経理
- 事務
- 法務
このような職業であれば、臨機応変な対応が求められたりトラブルが生じたりしない限り、自閉症スペクトラムでお悩みの人でも働きやすいかと思われます。
ただし、裁量の範囲があまりにも広く、曖昧な指示が多い場合は、パニックを起こす可能性もありますので注意してください。
また、自閉症スペクトラムと一口に言っても、その症状や程度は人によって異なります。
したがって、上述した職業に就いていても、職場や担当業務によっては多少の向き・不向きがあると思います(次章の「自閉症スペクトラムの人に向いていないと考えられる仕事」も同様です)。
これから就職活動をされる方は、上記の職業を参考にしつつ、これまでに述べた支援機関の専門家と一緒に、お勤め先の特徴や業務内容を考えていきましょう。
自閉症スペクトラムの人に向いていないと考えられる仕事

反対に、自閉症スペクトラムの人に向いていない職業には、以下のものが挙げられます。
- 営業職
- 窓口業務
- 接客業
この3つには、「対人スキルが求められる」「予想外の出来事が多い」という共通点があります。
これまで述べてきたように、自閉症スペクトラムの人は、社会性やコミュニケーションに困難があるため、「対人折衝が必要になる接客系の職業は難しい」と考えられます。
ただし、「一次対応が完全にマニュアル化されていて、それ以外の対応になったら別の担当者に引き継ぐ」体制が徹底されているのであれば、上記の職業も問題なくこなせる場合があります。
したがって、上記の業務に従事する場合は、オペレーションが定型的かつ単純であることが条件といえるでしょう。
さて、ここまで向いている職業と向いていない職業を解説してきましたが、先述のとおり、上記はあくまでも一例です。
自閉症スペクトラムの程度や職場の特徴次第で、「その仕事にマッチするかどうか」は多少変わってきます。
上述の職業は参考に留めて、実際の就職活動では専門家の意見を取り入れつつ、職場ごとに判断するようにしてください。
改めて、自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?
ここまでは、自閉症スペクトラムの人が、就職を成功させるためのコツを紹介してきました。
この章では改めて、自閉症スペクトラム障害(ASD)の概要をお伝えします。
①自閉症スペクトラムの概要・変遷

自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つの特性に困難がある発達障害です。
以前は、自閉症スペクトラム障害は「自閉症」と「アスペルガー症候群」に分かれていました。
しかし、2013年に刊行されたアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-V 精神疾患の分類と診断の手引』の中で、自閉症スペクトラム障害としてまとめられるようになりました。
「スペクトラム」とは、自閉症とアスペルガー症候群の病態をはっきりと区別するのではなく、地続きの「連続体」として捉えようという考えを反映したものです。
ただし現在でも、「医者以外が行う、一般的な表現」としては、言語発達に遅れのある場合を「自閉症」、知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがない場合を「アスペルガー症候群」と分類しているケースもよく見られます。
(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラムがよくわかる本』)
②自閉症スペクトラムの3つの特性
自閉症スペクトラムの人には、次のような、3つの特性上の困難が見られます。
- 社会性における困難:場の状況や上下関係に無頓着で、TPOに合った行動が難しい
- コミュニケーションにおける困難:質問の意図、身振り、比喩、冗談などを理解しづらい
- 想像力における困難:決まった順序やルールにこだわり、予定が変わるとパニックになりやすい
①の「社会性」とは、「他人と関係を持とうという意識」を指します。
自閉症スペクトラムの人は、対人関係にぎこちなさが生じやすく、グループワークが苦手と考えられています。
②のコミュニケーションにおける特性は、具体的には「ジェスチャーや表情を読み取れない」といった仕方で表れます。
とりわけ表情は、コミュニケーションを取る上で重要な要素のひとつです。
コミュニケーションには、言葉のやり取りからなる「言語的コミュニケーション」と、表情や声のトーンからなる「非言語的コミュニケーション」があります。
このうち、非言語的コミュニケーションが占める割合は90%以上とも言われるのです。
しかし、自閉症スペクトラムの人は、例えば相手が笑いながら「冗談を言わないでくれよ」と打ち解けたコミュニケーションを求めてきても、真意を読み取れずに、言葉どおりに受け取って、「冗談なんて言っていない」と返事をするといったケースが見られます。
③の想像力における特性は、「自分の思考が絶対に正しいと思い込む」「別の考え方まで気が回らない」などの形で表面化します。
想像力における特性のために、自閉症スペクトラムの人には「こだわりが強い」という傾向があります。決まった行動パターン(常同行動)を取らないと落ちつかないという方もいます。(参考:中村真 ※PDF「3.表情とコミュニケーション」)
③自閉症スペクトラムとADHDの違い

自閉症スペクトラムとADHDは、「発達障害の一種」として一緒に語られることも多いのですが、その特性は異なります。
ADHD(Attention-deficit hyperactivity disorder、注意欠陥・多動性障害)とは、不注意性・多動性・衝動性の傾向が見られる発達障害の一種です。
ADHDと自閉症スペクトラムの主な違いは、「対人関係でのコミュニケーション能力の差」にあらわれます。
ADHDの人は、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。
一方、自閉症スペクトラムの人と比べると、コミュニケーションに大きな困難が生じたり、会話のやり取りに不自由さが生じたりするということが少ないです。
また、ADHDの人は、他人の身ぶりの意味などを理解することができ、個人差はありますが運動が特に苦手ということはありません。
一方、自閉症スペクトラムの人は他人の身ぶりの意味などを察することができず、運動をするのが苦手なことが多いといった違いがあります。
とはいえ、自閉症スペクトラムの人の中にはADHD傾向が多分に含まれている人(=ASDとADHDを同時に抱える人)もいますので、個々人の特性の程度については、専門機関の診断を受けることをオススメします。
就職活動を有利に進めたい方は「周囲の助けを借りる」ようにしましょう

今回は、自閉症スペクトラム障害の人の就職活動の悩みから、面接などでアピールできそうな強み、就職活動のコツなどを解説しました。
就職活動を開始するにあたって、覚えておいていただきたいのは、悩みをひとりで抱え込まないということです。
できるだけ、ご家族やご友人、かかりつけ医に悩みを相談するようにしましょう。
もし「相談してもわかってもらえない」という場合は、自閉症スペクトラムの特性に理解のある専門機関を頼ってみてください。
あなたの特性や状況に合ったアドバイスがもらえるはずです。
周囲の助けを上手に借りることが、就職活動を有利に進める一番のコツです。
【最後に改めて…】
就労移行支援
という仕組みを知っていますか?
「就労移行支援」とは、「病気や障害のある人の一般企業での就職や仕事での独立と、その後の定着」をサポートする仕組みのことです。キズキビジネスカレッジは、就労移行支援の中でも、「これまでの職歴とは異なる、新たな業界・分野への就職」と「これまでの職歴を活かした就職」の両方に強いのが特色です。就労移行支援は公的な認可に基づいて行われており、病気や障害があることが診断書から明らかな場合などは、国の補償で最低0円から就労支援を受けられることもあります。
を利用した方は…
- 初任給
- うつや発達障害があっても、
KBCでは平均21万円
- 就職までの期間
- 通常約1年半かかるところ、
KBCでは平均4か月
- 就職率
- 通常52%のところ、
KBCでは82%
自閉症スペクトラム(ASD)の自分が就職活動でアピールしやすい強みを知りたいです。
一般論として、次の5点が挙げられます(個人差はもちろんあります)。(1)文字情報の処理に優れる、(2)特定領域の記憶力に長けている、(3)関心分野に高い集中力を発揮できる、(4)規則に従順で規範意識が強い(5)論理的な思考が得意。詳細はこちらをご覧ください。
自閉症スペクトラム(ASD)の自分に向いている仕事を知りたいです。
一般論として、次のような職種が向いている可能性があります(個人差や職場による差はもちろんあります)。(1)プログラミングなどのIT系、(2)経理、(3)事務、(4)法務。詳細はこちらをご覧ください。