アスペルガー症候群の人が就職を成功させる方法4選 成果が出る就職活動の進め方を事例とともに解説

こんにちは、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の寺田淳平です。
「アスペルガー症候群(現:ASD)だから就職できない」という話を耳にすることがあります。
あなたも、自身がアスペルガー症候群(現:ASD)で、そのために就職活動がうまくいかないと考えてはいませんか?
確かにアスペルガー症候群(現:ASD)の人の就労に困難が伴うのは事実です。
しかし、自身の特性を理解して適切に就職活動を進められれば、就職や就労は可能です。アスペルガー症候群(現:ASD)ではない人以上に活躍することもあり得ます。
そこで今回は、アスペルガー症候群(現:ASD)の人の就職に焦点をあてて、就労上の困難から就職活動の具体的な進め方、成功させるカギまでを徹底解説いたします。
実際に3,500人規模の事業所で人事を担当していたわたしが見てきた事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 本文中でお伝えするとおり、かつて「アスペルガー症候群」とされていた名称や内容は、医学的には「自閉スペクトラム症(ASD)」に改まっています。ただし現在でも「アスペルガー症候群」という言葉が使われる場面は多いです(日常会話や法令など)。それらを受けて、この記事では、内容的には「現行のASD」のものを紹介しつつ、表記としては「アスペルガー症候群(現:ASD)」といたします。
目次
アスペルガー症候群(現:ASD)の人が就職を成功させる方法4選
ここからは、アスペルガー症候群(現:ASD)の人が就職を成功させるためのカギを具体的に解説します。
就職活動を有利に進めるためのカギは、4つあります。
どれにも共通するのは、周囲の人を頼るという姿勢です。
主治医や支援者の助けを借りられる人ほど就職活動は成功しやすくなりますので、身近な人と一緒に確認しながら見ていきましょう。(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラムがよくわかる本』、對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』、木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』)
方法①二次障害がある場合、まずは二次障害を治療をする

アスペルガー症候群(現:ASD)の二次障害がある場合は、まず「二次障害の治療」に専念しましょう。
二次障害とは、発達障害に伴って起こる精神疾患などの障害をいいます。
アスペルガー症候群(現:ASD)の人は社会性・コミュニケーションに困難が生じやすいため、学校へ通う思春期前後に集団生活に馴染むことができず、いじめ被害を受けやすいです。
その結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような症状やうつを患ってしまい、それが日常生活や就職活動にまで影響してくる場合があります。
二次障害には主に以下のようなものがあります。
- 適応障害:明らかなストレス要因を機に情緒不安定や抑うつ、身体症状が続く
- 不安:漠然とした不安が続く全般性不安障害、対人場面で緊張が出る社交不安障害
- 強迫性障害:不快感を伴う考えや行動をやめられない強迫観念や強迫行為が続く
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD):生死に関わるようなショックな出来事の後で、恐怖や無力感が持続し、体験の想起や記憶がとつぜん思いだされる「フラッシュバック」が起こる
就職活動をはじめるときには、後述するように専門医にかかることで、まずは二次障害がないかを確認し、必要に応じて治療を進めるとよいでしょう。
関連して、アスペルガー症候群(現:ASD)の人は、他の発達障害(ADHDやLD)が併存することがあります。また、二次障害ではない病気・障害があることもあるでしょう。
専門医やサポート団体と話をすることで、そうした「アスペルガー症候群(現:ASD)以外の症状・特性」への対応もわかっていくと思います。
参考として、「ADHDと就職活動」については、下記コラムをご覧ください。
方法②自分の特性を理解する
就職成功のためには、「自分の特性を理解する」ことが必要です。
一口にアスペルガー症候群(現:ASD)といっても、その特性の程度は人によって異なります。
特に、興味・関心を抱いている分野は千差万別です。
前に解説したように、アスペルガー症候群(現:ASD)の人は興味・関心を抱いている分野への集中力や没頭するちからにはずば抜けたものがあります。
そのため、関心分野を活かすことのできる仕事に就ければ、活躍することができるでしょう。
人によっては感覚過敏があることで、こうした長所になる特性を引き出すために人から隔離された個室などを必要とする場合があります。
苦手な環境をいかに避けて、どのような条件下であればパフォーマンスを上げられるのかを考える上で、自分の特性を理解することは重要になってくるのです。
方法③支援機関に相談する

就職を成功させる一番のカギは、この「支援機関に相談する」にあります。
事例でも解説したように、アスペルガー症候群(現:ASD)の人が就職活動を進めようとしても、「なにから手をつけていいかわからない」という状態に陥りがちです。
そこで、後述する就労移行支援事業所や転職エージェントといった、障害に理解のある支援機関を頼ることで、就職活動を有利に進められるようになります。
これらの支援機関は実績も事例も豊富なため、きっとあなたに合ったアドバイスをしてくれるでしょう。
特性理解の手助け、就職先を探す手伝い、ESの書き方や面接の受け方など、様々な支援があるため、就職を考えているアスペルガー症候群(現:ASD)の人はぜひ支援機関に相談してみてください。
方法④障害に理解のある就職先かを見極める

最後のカギは、「障害に理解のある就職先かを見極める」ということです。
2021年3月に障害者雇用促進法が改正されたことで、それまで2.2%だった民間企業での障害者の法定雇用率が2.3%に、国・地方公共団体では2.5%から2.6%に引き上げられました。
さらに、民間企業の法定雇用率は、2024年4月からは2.5%、2026年7月からは2.7%へと段階的に引き上げられることが決まっており、障害のある労働者への取り組みが重視されつつあります。(参考:厚生労働省※PDF「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」)。
障害に理解のある就職先かどうかを見分けるポイントは以下の2つです。
- 障害に対する研修制度が充実しているかどうか
- 福利厚生制度が整備されているかどうか
障害に理解のある職場ほど、障害のある従業員への配慮について定期的に研修を行っている可能性が高いです。
また、福利厚生も従業員への意識をはかる上で重要なポイントですので、働きやすい就職先を探すためにもチェックしてみてください。
アスペルガー症候群(現:ASD)の就職活動中の困難と対策2選:事例別に解説
アスペルガー症候群(現:ASD)の人が就職活動中に陥りがちな困難には、どのようなものがあるのでしょうか?
この章では、2つの事例を見ながら解説していきます。
難点だけでなく、対策も一緒に見ていきましょう。(参考:梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』)
事例①エントリーシートのアピールポイントが書けない
事例の1つ目は、「エントリーシート(ES)のアピールポイントが書けない」というものです。
ESでアピールポイントを求められるときには、言外に、「就職先の企業で活かせそうな点をアピールするように」という意味が込められています。
しかし、アスペルガー症候群(現:ASD)の人は、そうした言外の意味や要求の裏に潜んでいる意図を見分けるということが苦手です。
逆に、企業側としても、アスペルガー症候群(現:ASD)の人の障害者枠での採用面接の際に、アピールポイントを尋ねてしまったがために求職者を困らせてしまったり、就職とは無関係な話を引き出してしまったという事例は多く見られます。
対策としては、ESでありそうなお題や実際のお題について、支援者と一緒に「問答集をつくる」ようにしてみてください。
自分の強みや弱みを第三者に確認してもらい、OKな内容の回答候補をつくっておくことで、回答候補の中から「その会社や業種の内容に合うもの」をひとつを選んで書くようにすると、ESを書くときに困らずに済むはずです。
事例②面接で質問者の意図を読めない

事例の2つ目は、「面接で質問者の意図を読めない」です。
これもアスペルガー症候群(現:ASD)のコミュニケーションや想像することへの苦手さから起こる、就職活動上の困難になります。
よく言われる事例として、面接のはじめに「ここまでどうやって来ましたか」という質問を受けたときに、一日のうちどこから話しはじめていいかがわからなくなるというケースがあります。
この質問は主には面接開始時に聞かれるのですが、簡単な質問からはじめて緊張を解きほぐす「アイスブレイク」の意味合いが強く、面接相手も詳細な回答を求めていない場合が多いです。
そのため回答の例としては、「13時過ぎにJR○○駅で■■線に乗り、××駅と△△駅で乗り換えて、14時前に◆◆駅で降りました」のような、カンタンな内容で大丈夫です。
しかし、アスペルガー症候群(現:ASD)の人は、「朝の何時に起きて支度をして、○時に家を出て、徒歩○分のバス停に行き、○番のバスに乗って…」ということを延々と話してしまいがちです。
対策としては、「最初の回答は5〜10秒程度で、早口は避けて行う」などのルールや条件を明確に定めるという方法があります。
人間は多くの場合10秒程度までであれば、相手の発言を抜け落ちなく記憶できます。
逆にその時間を大きく超える量を一方的に一度に話すと、充分に理解されないだけでなく、「相手の反応や理解も考えずに話す、コミュニケーション能力に欠けている人間だ」と判断されてしまいます。
端的すぎてしまっても要点を得ていれば、面接相手から最低限のコミュニケーションが取れると判断してもらえるため、話が長くなるよりもルールを守ることを優先した方がよいでしょう。
また、ES同様、よくある質問について第三者・協力者と受け答えの練習を行うこともオススメします。
アスペルガー症候群(現:ASD)の人が成果を出せる就職活動の進め方4点
それでは、具体的にどのような手順で就職活動を進めれば成果が出るのでしょうか?
ここでは4つの手順に即して、アスペルガー症候群(現:ASD)の人におすすめしたい就職活動の進め方を解説していきます。
進め方①医師に相談する

就職活動をはじめるときには、まず主治医の先生に相談しましょう。
先述したように、二次障害がある場合は、それが改善していない段階で就職活動を進めると、就職が成功しづらいだけでなく、病状が悪化してしまう危険性があります。
自分だけで判断せずに、専門家の意見を踏まえて就職に向けて準備をしてください。
進め方②一般枠か障害者枠かを考える
次に検討してほしいのが、一般枠と障害者枠のどちらの雇用枠を選ぶかです。
アスペルガー症候群(現:ASD)に限らず、発達障害のある人が悩む大きなポイントになります。
それぞれにメリットとデメリットがありますので、よく吟味していきましょう。
なお、アスペルガー症候群(現:ASD)の症状には程度があるため、人によっては一般枠での就職が難しい場合があります。
それを見極めるためにも、後述する支援機関などに適宜相談しながら検討するとよいでしょう。
(1)一般枠(クローズ就労)のメリット・注意点
一般枠とは、いわゆる「通常の求人・採用」のことです。
障害があることを非開示にして応募・就労することから、「クローズ就労」とも呼ばれています。
メリットは、主に次の3つです。
- 業種や職種の選択肢が増える
- 求人数が多い
- 給与水準が比較的高い
注意点は、以下に挙げるデメリットの方です。
- 業務内容や勤務形態への配慮が受けづらい
- 障害を隠さねばならないという不安がある
特に障害自体を隠さねばならないことから生じる精神不安が大きいと言われています。
(2)障害者枠(オープン就労)のメリット・注意点
障害者枠とは、その名のとおり障害のある人専用の求人・採用枠のことです。
障害を開示して仕事をすることから「オープン就労」とも呼ばれています。
こちらも、主に3つのメリットがあります(注意点ともに、一般枠・クローズ就労の裏返しです)。
- 仕事内容や勤務形態への配慮を受けられる
- 通院や服薬を優先できる
- 支援機関と就職先による支援を受けられる
特に最初にあげた仕事内容や勤務形態への配慮を受けられる点が強みですね。
一方、注意点には以下のものがあります。
- 就職先の選択肢が少ない
- 給与水準が比較的低い
あくまでも一般枠との比較になりますが、職種の選択や給与の点では難があることが多いです。
なお、障害者枠で働くためには障害者手帳の取得が必要になってきます。
- 厚生労働省「障害者手帳について」
進め方③就労支援機関を活用する

3番目は、就労支援機関を活用するというものです。
アスペルガー症候群(現:ASD)の人の就職活動では、第三者の人や支援者の客観的な意見が特に大切になってきます。
しかし、家族やご友人だけでは限界があります。
そこで、様々な障害のある人たちをサポートしてきた就労支援機関を活用するようにしてみてください。
障害への理解があるだけでなく、特性にあった就職先の紹介や面談の練習、インターンなどの手厚いサービスが受けられます。
国からの補助によって0円から福祉サービスを受けられるところもありますので、まずは就労支援機関に相談してみるとよいでしょう。
進め方④カスタマイズ就業を検討する
就職活動を進める上で最後に検討してほしいのが、この「カスタマイズ就業」です。
カスタマイズ就業とは、発達障害がある人の特性にあわせてカスタマイズされた業務を遂行する就労形態を言います。
要するに、あなたの得意なことやできることを企業に伝えた上で、それに合った仕事を受けるということです。
カスタマイズ就業は、通常、就労支援機関等(支援者)による企業訪問から始まります。
支援者が企業の担当者から業務内容を聞いて、発達障害者を活かした仕事の提案をすることで話が進みます。
そのため、就労支援機関の協力が必要不可欠になってきます。
カスタマイズ就業では、支援期間から仕事の提案がなされた後に、実際に発達障害などがある求職者が試験的に簡単な仕事をしてみたりと、丁寧な調整期間を経てから就労にはいるため、職場定着が進みやすいと言われています。
- 障害者職業総合センター「資料シリーズ No.36 カスタマイズ就業マニュアル」
アスペルガー症候群(現:ASD)の人の就職活動に役立つ福祉サービス4選
この章では、アスペルガー症候群(現:ASD)の人に役立つ就労福祉サービスを4つ紹介いたします。
福祉サービスにはそれぞれ強みがあり、あなたにあった事業所を探すことが大切です。
基本的に無料相談を受け付けているところが多いので、興味のある場所があれば一度相談してみてください。
①就労移行支援事業所
就労移行支援事業とは、障害者総合支援法にもとづいておこなわれる障害のある人向けの就労支援サービスです(私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)も、就労移行支援事業所の一つです)。
対象となるための条件は原則として以下の3点です。
- 原則18歳から65歳未満
- 一般企業への就職もしくは仕事での独立を希望している
- 精神障害、発達障害、身体障害、知的障害や難病がある
就労移行支援事業所では次のようなサービスを受けることができます(一例です)。
- あなたに向いている就職先や就労形態を一緒に探す
- 障害者手帳の申請などについて一緒に検討する
- 履歴書の書き方や面接の受け方の練習する
- 仕事に必要な専門スキルの講座を行う
詳細を知りたい人は、下記コラム・関連リンクをご参照ください。
- 厚生労働省「就労移行支援について」
②就労継続支援
就労継続支援とは、一般企業への就職が難しい障害者に、事務業務や軽作業等の実業務の機会の提供や必要な能力の向上をおこなう職業訓練サービスです。
就労移行支援との主な違いは以下になります。
- 就労継続支援には、利用期間に定めがない
- 就労継続支援では、工賃(賃金)が発生する
就労継続支援にはA型とB型の二種類がありますが、主な違いは年齢制限と雇用契約の有無になります。
就労継続支援についても、前掲した下記コラムにわかりやすくまとめてあります。ご参照ください。
- 厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」
③発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、アスペルガー症候群(現:ASD)などの発達障害の発達障害のある人が安定した生活が営めるよう、総合的な支援を目的として設置されている支援所です。
各都道府県に設置されており、生活面だけでなく教育や医療など、発達障害に関するさまざまな相談を受けられます(全国の一覧はこちらです)。
就職相談への対応や就労支援もおこなっていますので、お近くに発達障害者支援センターのある人はぜひご活用ください。
ちなみに、発達障害の診断を受けていない人でも利用可能です。
④障害者職業センター
障害者職業センターとは、アスペルガー症候群(現:ASD)を含む障害者への専門的な職業リハビリテーションサービスを実施している機関です。
ハローワークなどの就労関係機関や、障害者雇用に積極的な企業と連携して、障害のある人の就労に関する助言や提案を行っています(全国の一覧はこちらです)。
障害者手帳を取得していなくても利用可能ですので、興味があれば、お住いの近くの障害者職業センターを調べてみるとよいでしょう。
改めて、アスペルガー症候群(現:ASD)とは?
この章では、アスペルガー症候群(現:ASD)について改めて解説します。既にご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)「What is Autism Spectrum Disorder?」)
①ASDの概要
ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。
ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。
- 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式
他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。
なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。
②ASDという名称・分類について
ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が前掲の『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』を定めてからです。
それよりも昔には、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。
かつての分類では、「言語発達に遅れのある場合を自閉症」、「知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群」と区分して判断する傾向がありました。
一方、ASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。
なお、現在も「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、アスペルガー症候群などの旧名称・分類が残っていることもあります。
③ASDによる具体的な困難について
ASDの特性は、具体的には次のような形・傾向で現れることがあります(例であり、「ASDの人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)。
- 人と目線が合いにくい
- 場の状況や上下関係に無頓着である
- 名前を呼ばれても反応しない
- 一方的に言葉をまくしたてる
- 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
- 他人の発言をそのまま繰り返す
- 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
- 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
- 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
- 比喩や冗談を理解しづらい
- 表情から気持ちを察しづらい
- 自分だけのルールにこだわる
- 決まった順序や道順にこだわる
- 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)
④ASDの診断は医師だけが可能
「自分が(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。
逆に言うと、医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。
あなたが(ある人が)「発達障害かどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。
「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットや注意点は何か」などを相談することができます。
⑤ASDの医学的な診断基準
下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(精神障害の診察基準などを記した書籍)に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものです。
次のような診断基準に当てはまればASDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)。
- 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
- 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
- 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
- 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
- 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
- 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
- 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
⑥いわゆる「大人のASD」とは
「大人のASD」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「大人のASD」とは、医学的な定義がある言葉ではありません。次のような状態を指す俗語です。
- 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
- 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態
1に関連して、発達障害は生まれつきのものであり、「大人になって(大人になるにつれて)発達障害になった」ということではありません。その上で、大人になって受けた検査でASDであることが初めて判明したというケースは少なくないようです。
⑦ASDの「グレーゾーン」とは?
ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ASDの)グレーゾーン」と言います。
グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。
ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。
確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。
⑧ASD以外の発達障害
発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。
ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。
ASDとADHDの主な違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。
他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。運動が苦手なことも多いです。
ASDの人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。
ASD・ADHD・SLDの複数が併存する人もいます。気になる人は、下記の参考記事をご覧ください。
まとめ:支援者と協力することが就職成功への近道です

アスペルガー症候群(現:ASD)のある人が就職活動を成功させる方法について、症状から具体的な手順まで解説させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
アスペルガー症候群(現:ASD)に限った話ではないのですが、発達障害を抱えている人が就職を成功させるには、支援者との協力が必要不可欠です。
自分の視点だけでなく、第三者の視点から特性を理解した上で就職先を探せば、あなたに合う職場はきっと見つかります。
このコラムが、アスペルガー症候群(現:ASD)でお悩みのあなたの就労を助けるきっかけになれば幸いです。
アスペルガー症候群(現:ASD)の自分が就職を成功させるためにするべきことを知りたいです。
例として、「二次障害がある場合、まずは二次障害を治療をする」「自分の特性を理解する」「支援機関に相談する」「雇用形態を検討する」「障害に理解のある就職先かを見極める」が考えられます。詳細はこちらをご覧ください。
アスペルガー症候群(現:ASD)の自分にとって、成果が出る就職活動の進め方を知りたいです。
一般論として、「(1)医師に相談する」「(2)一般枠か障害者枠かを考える」「(3)就労支援機関を活用する」「(4)カスタマイズ就業を検討する」が考えられます。詳細はこちらをご覧ください。
監修志村哲祥

しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。
臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。
【著書など(一部)】
『子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数
日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
監修角南百合子
すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい。
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→