強迫性障害の人が仕事をする際の注意点3つ〜当事者体験談・向いている仕事なども紹介〜

メンタルヘルスを専門とする精神保健福祉士の国家資格を持つ西村です。
この記事をお読みのあなたは、強迫性障害(OCD、Obsessive Compulsive Disorder)があって、次のようにお悩みではありませんか?
- 強迫性障害は治るのか
- 強迫性障害になった人は仕事ができるのか
- 症状の対処や仕事のことなど、どこに相談すればいいのか
強迫性障害は治療によって治すことができる病気ですし、治療と並行しながら(または治療後に)仕事ももちろんできます。
この記事を読むことで、強迫性障害の治療法や、強迫性障害からの仕事の再開・継続方法などがわかるはずです。
- 強迫性障害の症状・治療法・対処法
- 強迫性障害の患者・家族会の治療体験談
- 強迫性障害の人が仕事をするときのポイント
- 強迫性障害の人が利用できる(仕事の)相談機関や支援制度
なお、このコラムは、全体的に、キズキビジネスカレッジ(KBC)及び私自身の知見と、厚生労働省ウェブサイト「強迫性障害」、『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』を参考に執筆しています。
【本文に入る前に…】
就労移行支援
という仕組みを知っていますか?
「就労移行支援」とは、「病気や障害のある人の一般企業での就職や仕事での独立と、その後の定着」をサポートする仕組みのことです。キズキビジネスカレッジは、就労移行支援の中でも、「これまでの職歴とは異なる、新たな業界・分野への就職」と「これまでの職歴を活かした就職」の両方に強いのが特色です。就労移行支援は公的な認可に基づいて行われており、病気や障害があることが診断書から明らかな場合などは、国の補償で最低0円から就労支援を受けられることもあります。
を利用した方は…
- 初任給
- うつや発達障害があっても、
KBCでは平均21万円
- 就職までの期間
- 通常約1年半かかるところ、
KBCでは平均4か月
- 就職率
- 通常52%のところ、
KBCでは82%
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2022年7月現在9校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
執筆西村二架

にしむら・にか。精神保健福祉士。
1992年生まれ。関西学院大学文学部卒業後に京都医健専門学校で学び、2019年に国家資格・精神保健福祉士資格を取得。2018年8月から、キズキ共育塾(不登校・中退・発達障害・社会人などのための個別指導塾)で講師として勤務。現在は主任講師として国語・数学・英語・小論文・面接の学習支援およびメンタル支援を担当。また、うつや発達障害の方々のための就労移行支援事業所キズキビジネスカレッジでも英語などを教える。2022年現在、TOEIC855点を所持。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→
目次
強迫性障害の人が仕事をするときの3つのポイント

続いて、強迫性障害の人が仕事をするときのポイントをご紹介します。
現職を続ける場合にも、転職・(再)就職を目指す場合にも重要なポイントですので、ご留意いただければ幸いです。
各項目に共通してお伝えしたいことは、「医療機関とのつながりを保つこと」です。
ポイント①「おかしいな」と思ったら医療機関に行く
心身の調子が「何かおかしいな」と思ったときは、迷わず診察を依頼しましょう。
強迫性障害は身体症状が出にくいため、受診基準をはっきりとお伝えすることは難しいです。
しかし、一つの指標として、「日常生活へ支障が現れ始めたら受診する」ということは言えます。
例えば、下記のような状況が生じたようであれば、早めの受診をオススメします。
- 不潔恐怖で、30分ごとに手を洗わないと気がすまない。お風呂も1日3回は入らないと気持ちが落ち着かず、仕事に支障が出ている。
- 確認強迫で、仕事や日常生活で同じことを何度も確認する。家のカギを閉めたかどうか、確認しても職場で何度も不安になって考える。仕事の業務でも間違いがないかどうか不安になり4,5回以上確認し、業務が滞る。
「今現在はそうではないが、放っておくと、いずれ上記のようになりそう」という場合も、早めに医療機関にかかりましょう。
早い段階で医療機関にかかることで、仕事や私生活に大きな影響を与える可能性は減っていきます。
ポイント②自己判断で服薬中断・通院中断しない
自分の判断で、服薬や通院を中断しないようにしましょう。
治療が進んでいくと、「もう大丈夫だ」「ここからは自分で対処できそうだ」と思うこともあるでしょう。
ですが、「やめてもいいかどうか」は、医師でないと判断は難しいものです。
また、「もう大丈夫だ」と思う以外に、薬の服用量の多さや、治療法への抵抗感などから、治療をやめたくなることもあるでしょう。
そんなときは、医師や支援者に、不安に思っていること、この治療をする理由・疑問などを、一つひとつ聞いてみてください。
医師から十分な説明を聞き、病気や治療のことが理解できれば、必要な治療なのだと納得して治療に取り組めるでしょう(納得いかなければ、病院や治療法を変えることも考えられます)。
自己判断で服薬や通院をやめると、症状がぶりかえすこともあります。
治療を続けることが、仕事を続ける・復帰するための一番の近道です。
ポイント③治った後も、症状の兆候が出てきたら主治医や支援者に相談する

強迫性障害は、医師や支援者とともに治療に取り組めば、治すことができます。
ですが、強迫性障害は再発の可能性があります。
ですので、「治った」と医師から言われたとしても、定期的に専門家に診てもらったり、不安を感じたときに相談できたりする相手を確保しておくことが大切です。
再発のサインや兆候を感じられたときは、ためらわずに「主治医、支援者に相談」しましょう。
そうすることで、仕事に大きな支障をきたすことなく、治療と仕事を並行して行いやすくなります。
ちなみに、再発のきっかけとしては、「受験、昇進、結婚、出産など、責任感が増し、後悔したくないと思うときが多い」と言われています。
強迫性障害の人に向いている可能性がある仕事

強迫性障害の人に向いている可能性のある仕事をご紹介します。
「可能性」という表現は、個々人の症状や性格などによって、「絶対にこの仕事が向いている」と言えるものではないことによります。
また、向いている可能性がある仕事も、職場や具体的業務によって、その内容も様々です。
ご紹介する内容は、「強迫性障害があっても向いている仕事はある」という安心材料にしていただいた上で、「実際のあなたの仕事探し」については、後述する支援機関にご相談することで、より具体的にわかっていくと思います。
①押さえるべきポイント
強迫性障害の方が仕事を選ぶ際にポイントとなる点は、以下のようなものがあると考えられます。
- 「責任感が増し、後悔したくない」と感じる大きな変化は再発につながりやすいので、そういった大きな変化が少ない仕事
- 強迫性障害のサインや兆候が現れた際に、症状に対処する時間を作ることができる仕事
- 「責任感」という点から、ミスが許されないような仕事ではなく、ミスしてもある程度リカバリーできるような仕事
- 不潔恐怖の症状が強かった人であれば、そういった恐怖心を強く感じなくてすむ仕事
- 強迫確認の症状が強かった人であれば、確認作業の少ない仕事
②向いている可能性のある仕事

①から考えると、「強迫性障害の人に向いている可能性がある仕事」の例には、次のようなものが考えられます。
- プログラマー
- ライター
- デザイナー
- 歩合制の仕事
- 工場での作業スタッフ
- データ入力系の業務
強迫性障害の悩み相談を受け付けている機関

強迫性障害について、(病院以外に)なかなか相談できない、という方も少なくありません。
しかし、強迫性障害について相談を受け付けているところはたくさんあります。
相談先の例をご紹介しますので、少しでも興味のあるところがあれば、連絡してみてください。
また、ご自身がお住まいの都道府県・市区町村に独自の相談先がある場合がありますので、そちらも探してみることをオススメします。
なお、特に「仕事探しについての相談」は、次章で紹介します。
①こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省)
下記の電話番号にかけると、所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続します。
また、下記の受付時間②でお住まいの地域が相談を終了している場合は、夜間対応として、精神保健福祉士などが対応します。
どこに相談したらいいかわからない場合は、こちらに電話すると、相談に乗ってくれますし、適切な機関へもつないでくれるはずです。
TEL:0570-064-556
受付日時①都道府県によって異なる(詳細は厚生労働省ウェブサイト「電話相談」をご覧ください)
受付日時②月~金曜日の、18時30分~22時30分(22時まで受付)
②働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省)
働く人の「こころの耳電話相談」では、全国の労働者の皆様やその家族、企業の人事労務担当者の方々からのご相談を電話で受け付けています。
また、「心の耳ウェブサイト」では、「こころの耳SNS相談」「こころの耳メール相談」や、疲労蓄積度セルフチェック」なども提供しています。
TEL:0120-565-455(最長20分)
受付日時:月・火曜日の17~22時、土・日曜日の10~16時(祝日、年末年始は除く)
③働く人の悩みホットライン(日本産業カウンセラー協会)
働く人の悩みホットラインでは、職場、暮らし、家族、将来設計など、働く上での様々な悩みを相談できます。(公式サイトはこちらです)
TEL:03-5772-2183(1人1日につき1回30分以内)
受付日時:月~土曜日の、15~20時(祝日・年末年始除く)
強迫性障害の人の仕事探しに対応しているサポート機関

強迫性障害のある方が仕事探し(就職、転職、再就職)をする際にも、利用できる支援機関があります。
サポート機関①就職・転職エージェント
無料で利用できる、民間の就職・転職エージェントです。
近年では、病気や障害のある人の仕事探しをサポートしているところがあります。
いくつか話をしてみて、ご自分に合いそうなところを(並行的に)利用してみましょう。
サポート機関②ハローワーク

ハローワークでも、強迫性障害からの仕事探しについて相談できます。(以下、ハローワーク「ハローワークのサービスについて(障害のある方向け)」を一部編集)
ハローワークでは、障害のある人たちの仕事探しを支援するため、専門的な知識を持つ職員・相談員を配置しています。
仕事に関する情報を提供したり、就職・転職・再就職に関する相談に応じたりするなど、きめ細かい支援体制を整えています。
個別にその人にあった求人の提出を事業主に依頼したり、採用面接に同行したりすることも行っています。
さらに、障害のある人を対象とした就職面接会を開催しています。
障害者手帳をお持ちでない人も利用できますので、ぜひご利用ください。
サポート機関③就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、病気や障害のある人の仕事探し(就職・転職・再就職)を援助する福祉サービスです。
各事業所は、公的な認可を得た民間事業者が運営しています。
そのサービス内容は、仕事に就くのための知識・技能の習得、履歴書・経歴書の作成支援、転職後の職場定着支援など、多岐に渡ります。
転職先候補の業務や雰囲気を体験できる職場体験実習(インターン)の紹介も行っています。
利用の可否は、お住まいの自治体が、下記などに基づいて判断します。
- 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある
- 18歳以上で満65歳未満の人
- 離職中の人(例外あり)
※上記を満たすなら、障害者手帳を所持していなくても利用可能です。
ご自身が利用できるかどうかは、自治体や、各就労移行支援事業所に相談してみましょう。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)も、この就労移行支援に分類されます(ご相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください)。
就労移行支援について、さらに詳しく知りたい人は、「就労移行支援とは?サービス内容から就労継続支援との違いまで解説」をご覧ください。
強迫性障害の人が使える可能性のある支援制度

強迫性障害の人が使える可能性のある制度をご紹介します。
制度の利用をためらう必要はありません。
むしろ積極的に利用し、強迫性障害をしっかりと治し、仕事に問題なく復帰できることを目指していきましょう。
特に、「休職中にもらえる傷病手当金(健康保険)」、「失業中にもらえる失業保険の基本手当(雇用保険)」については、少し内容が複雑で、詳しい内容を知らない人も多いので、ぜひチェックしてみてください。
①自立支援医療(精神通院医療)制度
自立支援医療(精神通院医療)とは、「通院して精神医療を続ける必要がある人」のための、通院医療費の自己負担を軽減する制度です。(参考:厚生労働省※PDF「自立支援医療(精神通院医療)について」)
相談・相談先は、市区町村の障害福祉課です。
この制度を利用できると、医療費の自己負担を3割から1割にすることができます。
また、1か月当たりの1割負担も過大にならないよう、世帯の所得に応じて支払い上限を設けています。
通院にかかる費用(生活への負担)を減らすことで、強迫性障害の治療に専念できたり、治療をしながら仕事継続や仕事探しをする助けになると思います。
強迫性障害の人の場合、通院が必要になることが多いので、必要と判断されることも多いと思います。
なお、「通院にかかる医療費」が1割になるので、入院やカウンセリングなどについては適応されないことにご注意ください。
②年次有給休暇(非正規の場合も)

正規雇用の場合はよくご存知かもしれませんが、年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に付与される、「休んでも給料が減らない休暇」のことです。
一方で、非正規雇用の ああいにも有給休暇が設定されることは、あまり知られていないことかもしれません。
非正規で働いている人も、「自分には有給休暇はない」と思い込まず、職場に確認してみましょう(これまでの勤務期間が短い場合は、設定されないこともあります)。
有給は、一定期間勤続していれば年に20日、前年度の繰り越しが最長2年まで認められるので、多い人なら40日くらいあります。
なお、療養のために有給を「長期間」使いたい場合は、職場から診断書の提出を求められることもありますので、その場合は主治医に発行を依頼しましょう。
年次有給休暇は、事業場の業種、規模に関係なく、全ての事業場の労働者に適用されます。
年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して与える必要があります。
参考:厚労省大阪労働局「年次有給休暇(Q&A)」)
③病気休暇制度(休職制度)
お勤め先によっては、療養のための「病気休暇制度(休職制度)」が就業規則で定められています。
厚生労働省の調査によると、労働者数30人以上の4,127社のうち25.5%の会社が「病気休暇制度」があると答えています。(参考:厚生労働省「平成三十一年度就労条件総合調査」)
あなたのお勤め先に病気休暇制度があるか、確認してみましょう。
通常、病気休暇制度を利用するためには医師の診断書が必要になりますので、主治医に発行を依頼しましょう。
休職できる期間は、数か月~2年くらいが多いです。
休職期間中に支払われる給与は、お勤め先によって、全額から無給まで様々です。
病気休暇制度がない会社、またそれを超えて休む場合は、給与が発生しない(または減額される)「休職」に入ります。
休職制度は法的な義務がある制度ではなく、各企業の就業規則や社内規定によって定められています。
給与がない(少ない)場合は、事項で紹介する健康保険の傷病手当金を利用できます。
④健康保険の傷病手当金

休職によって給与が出ない間の収入について、健康保険の傷病手当金があります。
契約社員などの非正規雇用であっても、健康保険に加入していれば、健康保険組合から1年6か月の傷病手当金の支給を受けることができます。
- 支給金額:基本給の7割
- 支給期限の目安(休職期限満了の目安):1年6か月
お勤め先によっては、支給金額が基本給の8割だったり、期限を1年6か月以上に延長できたりすることもあります。
申請・相談にあたっては、会社の人事・総務を通じて、健康保険組合か協会けんぽ(全国健康保険協会)とのやり取りを行います。
健康保険の傷病手当金について、さらに詳しく知りたい人は、全国健康保険協会ウェブサイト「病気やケガで会社を休んだとき」をご覧ください。
⑤雇用保険(失業保険の基本手当)
強迫性障害に伴って仕事を辞めた場合には、雇用保険(失業保険の基本手当)の受給が可能です。
申請する場合は、公共職業安定所(ハローワーク)に連絡してください。
最大支給期間は細かく定めがあり、支給金額は、基本給の約50~80%です。
自己都合退職と判断された場合は、2か月の給付制限期間(給付がない期間)が発生します。(参考:厚生労働省※PDF「給付制限期間」が2か月に短縮されます」)
どのような判断がされるのかは複雑ですので、ご自身の雇用保険がどのような扱いになりそうか、退職前に主治医に相談しておきましょう。
なお、雇用保険は、前項の健康保険の傷病手当金と同時受給はできません。
より詳しくは「基本手当について ハローワークインターネットサービス」をご覧ください。
強迫性障害の症状

この章では、改めて強迫性障害の症状をお伝えします。すでにご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ぜひご覧ください。
強迫性障害の症状には、「強迫観念」と「強迫行為」の2つのがあります。
- 頭から離れない考えのこと。その内容が「不合理」だとわかっていても、頭から追い払うことができない。
- 強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為のこと。自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめらない。
もう少し細分化すると、次のような例があります(他にもあります)。
- 不潔恐怖(いくら洗っても汚れが取れない、自分がばい菌をみんなに広げてしまうかも)
- 確認強迫(何度確認してもすぐに不安になる)
- 不完全恐怖(納得できなくて最初からやり直す)
- 加害恐怖(知らないうちに人を傷つけたかも)
- 縁起強迫(こんなことをしたら縁起が悪い)
- 強迫性緩慢(よいやり方を考えすぎて動けない)
- 収集癖(いつか使うかもしれない)
それぞれの症状は、強迫性障害でなくても、誰もが日常生活の中で行う考えや行動の延長線上にあるものかもしれません(例:「カギちゃんと閉めたっけ?」「定期的に手を洗わないと落ち着かないなあ」)。
その上で、それらの症状が、「日常生活に支障があるレベル」に達している場合を、強迫性障害と言うのです。
日常生活に支障があるレベルとは、例えば以下のようなものです。
- 最初はちょっと多いくらいだった手洗いや確認がじわじわと増え、いつの間にか日常生活の大半が手洗い・確認に費やされている。
- 車を運転しているときの不安がだんだんと強くなり、道のくぼみを通ったときや道にシミを見つけたときに、「人をひいたのではないか」という気持ちが湧き、車から降りて確認する、ということを何度も行う。
強迫性障害の治療法・対処法

この章では、強迫性障害の治療法や対処法をお伝えします(こちらも、すでにご存じの方は次章「強迫性障害、患者・家族会の治療体験談」まで進んで問題ありません)。
強迫性障害は、適切な治療を医療機関で受けることで治すことができる病気です。
強迫性障害は、薬物療法と認知行動療法による治療を行います(2つの療法を併用することで効果が高まります)。
以下、治療法の一般論・概要をご紹介します。
「強迫性障害は治すことができる」という安心材料にしていただいた上で、「実際のあなた向きの治療」は、主治医にご相談ください。
- 強迫観念・強迫行為のうち、強迫観念の緩和に使用される。即効性はないが、多めの量を2~3か月続けると、強迫観念のとげとげしさが和らぐ。
- 主に、「エクスポージャー」と「儀式妨害」と呼ばれるものから成り、総称してERP(Exposure & Ritual Preventation)と呼ばれる。
- 不安、不快、嫌悪感に、日常生活に支障の出ない範囲まで徐々に慣れていく治療法。それらを実際に体験することで、事前に想像していたような悪いことやつらいことが実際には起こらないことを、理屈ではなく体験から納得していく。
- 強迫観念が生まれてきても、強迫行為(儀式)を行わずに過ごすこと。例えば「今すぐに手を洗わないといけない」という強迫観念が生まれてきたとしても、その行為を全く行わずに(もしくは何分間か行わずに)過ごせるようにしていくようなこと。
認知行動療法(ERP)は、あえて不安や恐怖の対象に触れることで身体感覚を慣れさせ、思い浮かぶ強迫観念から逃げないようにしていきます。
最初は、抵抗感が大きかったり恐ろしかったりしても、時間の経過とともに落ち着き、治まっていきます。
強迫性障害、患者・家族会の治療体験談

強迫性障害に限らず、病にはそれぞれ、自助会や当事者会と呼ばれるものがあります。
長く続く病気に独りで悩み、立ち向かい続けるのではなく、仲間と一緒に、ときには悩みを共有し、ときには互いを勇気づけながら、支え合っていこうという会です。
以下、その効果や概要などを紹介します。
①仲間や体験談の意味
仲間がいたり、体験談を見聞きしたりすると、独りで治療に取り組むよりも効果があることがあります。
認知行動療法(ERP)による治療は、当事者にとって大きな恐怖に立ち向かう苦痛を伴います。
治療を始めようと決心するまでが、当事者にとっては一番の重荷となるかもしれません。
自助グループに参加することや、強迫性障害当事者の日常生活や仕事における体験談を聞くことが、治療のきっかけになる方も多いようです(自助グループについては、次章で紹介します)。
「自分と同じ人たちがいる」「治った人がいる」という現実を知って、「自分だけじゃない」と感じられることも、治療への大きな力となるでしょう。
また、同じ病気で悩む人たちが集まった集団でのERPは、下記のように、一人で行うよりも効果的な場合があります。
異なるタイプの強迫性障害の患者さんが、集団でERPを行う方法があります。集団で行うメリットは、自分とは違う他人の症状を客観的に見ることで、「なぜ、こんなものが怖いのか」「どうしてあそこで確認するのだろう」と観察することができ、次第に自分自身の行動も客観視することができるようになることです。自身の問題点が理解できれば、自分ひとりでもERPを行うことが可能です。再発しても、自分なりにコントロールすることができるようになります。
(『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』から引用・一部編集)
(※)もちろん自分で対処できないことはあるので、医療機関とのつながりは大切です
②強迫性障害の自助グループの例
強迫性障害の患者と家族による自助グループの例に、「OCDの会」があります。
「OCDの会」は熊本で発足し、現在は北海道、東北、東京、静岡、名古屋にも会があります。
具体的な活動としては以下のようなものがあります。
- 月例会
- 普及活動
- 研修会
- 会報誌
- メルマガ
こうした自助会に参加する意義は、同じ病気に悩む人の体験や気持ちを聞くことができるだけでなく、クリニックや治療法などの様々な情報が得られるところにもあります。
「OCDの会」以外にも自助グループはありますので、ご自身が通えそうだったり、興味のあるプログラムを実施していたりするところを探して、連絡してみてください。
③強迫性障害の人の治療体験談
続いて、強迫性障害の人の治療体験談を紹介します。
「見られて恥ずかしい変な服装や髪型で外出して」とか「中途半端を目指して」という先生の指示が最初はわかりませんでした。ダメ人間になる努力をするのは変な気分でした。ただ、2日間の集中プログラムで、私は変わりました。3時間かかっていた風呂が20分になり、2時間かかっていた着替えも5分でできます。会社でもデータ確認の回数が減り、「完璧などということはない」と思いながら仕事ができるようになりました。他のことも普通にできるようになった自分が嬉しいです。
(『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』から引用・一部編集)
KBCの利用者さんからは、次のような声をお聞きしました。
- 自分に合った対症療法(症状が出てきたときの対処法)の確立で、気持ちが安定した
- こまめな相談ができるようにして、不安などを随時解消することで、症状が安定していった
- 「誰に言えばこの不安が解決するか」などの、自分なりのフローを組むことが大事
まとめ

強迫性障害の概要、治療法、仕事との関係、利用できる支援機関や制度などをご紹介してきました。
最後に、参考文献として使用させていただいた『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』から、強迫性障害当事者の人の言葉をご紹介したいと思います。
「強迫性障害になったのは、けっして自分が悪いからではありません。
あなたを強迫観念や強迫行為に駆り立てる病気が悪いのです。
強迫性障害は治る病気です。
支えてくれる医師、支援者、当事者会の人を信じて、有期を出して治療に取り組んでください。」
強迫性障害は、その人の考えや行動を大きく変えますが、治療に取り組めば治る病気です。
できるだけ早く、医療や支援につながり、あなたが信頼できる支援者とともに回復、仕事へと向かっていくことを心から願っています。
この記事が、あなたのお役に立ったなら幸いです。
【最後に改めて…】
就労移行支援
という仕組みを知っていますか?
「就労移行支援」とは、「病気や障害のある人の一般企業での就職や仕事での独立と、その後の定着」をサポートする仕組みのことです。キズキビジネスカレッジは、就労移行支援の中でも、「これまでの職歴とは異なる、新たな業界・分野への就職」と「これまでの職歴を活かした就職」の両方に強いのが特色です。就労移行支援は公的な認可に基づいて行われており、病気や障害があることが診断書から明らかな場合などは、国の補償で最低0円から就労支援を受けられることもあります。
を利用した方は…
- 初任給
- うつや発達障害があっても、
KBCでは平均21万円
- 就職までの期間
- 通常約1年半かかるところ、
KBCでは平均4か月
- 就職率
- 通常52%のところ、
KBCでは82%
強迫性障害の自分が仕事をするために押さえるべきポイントを知りたいです。
一般論として、次のような点が挙げられます。(1)「おかしいな」と思ったら医療機関に行く、(2)自己判断で服薬中断・通院中断しない、(3)治った後も、症状の兆候が出てきたら主治医や支援者に相談する。詳細はこちらをご覧ください
強迫性障害の自分に向いている仕事を知りたいです。
一般論として、次のような特徴のある仕事は向いている可能性があります。(1)大きな変化が少ない仕事、(2)症状が出たときに対処時間を作れる仕事、(3)ミスしてもリカバリーできる仕事、(4)恐怖心を強く感じなくてすむ仕事、(5)確認作業の少ない仕事。詳細はこちらをご覧ください。